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高松高等裁判所 平成4年(う)233号 判決

本店所在地

高松市元山町九四八番地一

福井興業株式会社

(右代表者代表取締役 福井正雄)

本籍

高松市元山町九二一番地第一

住居

高松市元山町九二一番地一

会社役員

福井正雄

昭和五年九月一六日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、高松地方裁判所が平成四年一一月一二日言い渡した判決に対し、被告人両名から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官福岡晋介出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人古市修平作成の控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官福岡晋介作成の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、被告会社を罰金二五〇〇万円に、被告人福井を懲役一年六月・三年間刑執行猶予にそれぞれ処した原判決は重すぎて不当であるというのである。

よって、所論にかんがみ、記録及び当審における事実取調べの結果を総合して検討するに、本件は、被告会社の代表取締役である被告人福井が、架空の修繕費や残土処理費を計上し、あるいは、固定資産とすべきものを工事費として損金計上するなどの方法により、被告会社の三事業年度分の各所得につき税務当局に過少申告をし、もって、不正の方法により合計一億〇七六九万一三〇〇円の法人税を免れたという事案であるところ、右は、結局のところ、将来の不況に備えて資金を社内に留保するためという、被告人福井の自己本位で身勝手な考えに基づく犯行と認められ、その動機、経緯に格別酌むべきものがないこと、また、犯行の手段が巧妙で悪質なものであるうえ、ほ脱税額が多額に上り、ほ脱率も相当高いこと、更に、被告人福井は、やや古いものではあるが、所得税法違反罪により処罰された前科を有することなどの事情に照らすと、犯情は良くなく、被告人らの刑責は軽視できないから、本件発覚後、被告会社において、本件各法人税につき修正申告をしてその納付を済ませたこと、被告人福井には、前記のもののほかにはさしたる前科はなく、また同被告人なりに反省の態度を示していることなど、被告人らに有利な諸般の情状を十分斟酌しても、原判決の量刑が不当に重いとは考えられない。論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村田晃 裁判官 山脇正道 裁判官 湯川哲嗣)

平成四年(ウ)第二三三号

○ 控訴趣意書

被告人 福井興業株式会社

同 福井正雄

右の被告人らに対する法人税法違反被告事件の控訴の趣意は左記のとおりである。

平成五年二月二三日

右被告人両名弁護人 古市修平

高松高等裁判所第一部 御中

一、原審は、被告人福井興業(株)(以下「被告会社」という)に対し、罰金二五〇〇万円、被告人福井正雄(以下「被告人福井」という)に対し、懲役一年六月、三年間執行猶予の判決を科しているが、量刑著しく重きに失するので破棄されてしかるべきである。

原審判決は、被告人福井が過去に所得税法違反の前科のあること及び本件のほ脱税額が多額であること等を斟酌したものと思われるが、以下述べる被告人らに有利な諸情状について酌量されていない極めて遺憾な判決である。

二、1、本件脱税の動機について

まず第一に被告会社は産業廃棄物の処理及びセメント販売等を主たる業とする会社であるが、昭和四七、八年頃のオイルショックによる不況で倒産の危機に瀕した経験があり、今回のバブル経済による好況も長続きせず(現に崩壊した)、不況がやってくるとの認識から何とか利益を社内留保し、不況に備えようとの意図から脱税したもので、代表者の被告人福井が個人的に蓄財したり、費消したものではない。

第二に被告会社は産業廃棄物の処理を業とする会社であるが、この業種では一番頭を悩ますのが産業廃棄物の処理場所を確保することであるが、付近住民の反対にあったり、あるいはこれに伴って不当な利益をむさぼろうとする暴力団や右翼の暗躍があって、場所の確保や事業の継続のために多額の裏金の支出を余儀なくされるのである。

しかるにこのような裏金は領収書が取れないため税務当局から経費とは認めてくれないことも本件犯行の要因の一つである。

第三に被告会社は、昭和六二年頃より韓国よりセメントを輸入して販売していたが、日本国内のメーカーが外国産のセメント輸入に対して国内需要が低下することを恐れ、結託して外国セメント輸入業者には国内セメントを一切販売しないという形で圧力をかけられ、正規のルートでは国内セメントを仕入れられなくなった。

被告会社としては、韓国セメントの輸入だけでは賄いきれず、裏のルートで国内産セメントを仕入れざるを得なかったが、表に出すことができないため裏金で決済せざるを得なかった。

このため北朝鮮産のセメントの仕入れ先である「臨海セメント」の協力で架空請求書を出してもらい、国内産セメントを「臨海セメント」からの仕入れとして計上するなどの操作をせざるを得なかったのである。

しかも韓国セメントは同国の国内事情によって輸入ができなくなることも予想されるため、セメントサイロの建設費を固定資産税として償却するよりも経費で落とし、不況時に備えて利益を社内留保しておかざるを得ない状況があった。

このようにセメントや産廃の事業は、裏金を要したり、業界自体の体質に問題があったり、景気の好不況に左右されやすい体質があること等が本件犯行の動機の一因をなしていることを御理解いただきたい。

第四に香川小松や日産ディーゼル東四国販売等の建設機械のディーラー達は、業者間の競争が激しいため、その売り込みのために様々な甘言を弄する。

即ち、ディーラーのセールスは、売買代金を払った後でその一部をバックするとか、或いは建設機械は本来は固定資産であるがこれを修繕費の形で請求し、一括して当年度の経費として落とせるようにする等のセールス・トークをするのは業界の常識である。

本件では被告人福井が建設機械の購入に当って一方的にディーラーに対し修繕費として請求することを強要したかのように原審が認識したとすれば、それは明らかに誤りである。

被告会社がセールス・トークに乗ったのは非難されてもしかたがないが、ディーラーの右甘言が被告人らを脱税へと駆り立てた要因であることを御理解いただきたい。

第五に被告会社は共同会計事務所に経理事務を委任しているが、かなりの顧問料を払っているにもかかわらずほとんど会社に来ないばかりか、その事務を資格のない事務員寒川幸信にまかせきりで、しかも申告期限間近になって短時間の打合せだけで申告してしまうというやり方自体にも問題があった。

担当税理士がもう少し親身に被告人らの相談に乗り、後記のとおりの正規の申告をすれば税金が安くて済むことを指導をしてくれていれば、本件犯行を回避できた可能性もあったのであり、この点も本件脱税の要因となっている。

三、正規の申告をした場合の税額等について

被告会社の本件脱税は、昭和六三年ないし平成二年の三年間でそのほ脱税額は合計一億七六九万一三〇〇円である。

ところで、弁第三号証(税理士多田羅清三作成)によると、被告会社が正しい申告をしたとすれば、建設機械等の固定資産については減価償却や特別償却が認められ、その償却費を合計すれば、約一億三八〇〇万円である。

ちなみに、資本金一億円以下で申告所得八〇〇万円を越える部分の所得に対しては、昭和六三年及び平成元年度は税率四二%、平成二年度は四〇%である。

従って右一億三八〇〇万円について仮に税率四割として計算しても約五五〇〇万円となり、正規に申告しておけば、少なくともこの金額だけ納税額は安く済んだのである。

つまり本件ほ脱税額は一億七六九万円余であるが、実質のほ脱税額はその半額に満たないといって過言でない。

しかし被告会社は本件脱税をしたため右償却が認められなくなったため、結果的に一億七六九万円余のほ脱税額となったのである。

四、被告会社は、本件起訴後税理士に変え、毎月丹念に経理面のチェックを受け、綿密な指導を受ける等経理システムを根本的に改善しており、二度と再犯を犯すおそれのない状況を自ら作り出している。

又被告人福井は、社団法人香川県産業廃棄物協会会長、協同組合香川県産業廃棄物処理センター理事長、香川県トラック協会理事等の要職を歴任してきて、少なからず社会に貢献してきたが、本件事件を新聞等のマスコミに掲載され、社会的制裁を受け、又右役職を辞任し、深く反省しているところである。

五 以上申し述べた諸般の情状を十分御斟酌いただき、御庁におかれては、是非とも原判決を破棄の上、被告会社に対してはより低額の罰金を、被告人福井に対してはより寛刑を望む次第である。

以上

平成四年(う)第二三三号

答弁書

法人税法違反

福井興業株式会社

福井正雄

右の者に対する頭書被告事件について、弁護人の控訴趣意に対し、左記のとおり答弁する。

平成五年四月九日

高松高等検察庁

検察官検事 福岡晋介

高松高等裁判所第一部 殿

本件控訴の趣意は、量刑不当をいうものであるが、その要旨は、第一に不況対策のため会社の留保資産を増加させる意図であり、個人資産の蓄財、あるいは個人的費消の目的ではなかった旨、第二に産業廃棄物の処理場を確保し、業務を継続するために多額の裏金の支出があつた旨の簿外経費の主張、第三に外国産セメントを輸入販売しているために国内産セメントの仕入れをメーカーから妨害され、裏のルートで仕入れた国内産セメントの代金を裏金で決済せざるを得なかった旨の簿外経費の主張、第四に重機等の機械購入代金の決済について架空の修繕費名目としたのはディラーの甘言に乗せられたものであって被告人において要求したものではない旨、第五に顧問税理士が適切な相談指導をしなかったためである旨、第六に適正な申告をしておれば購入した機械等の固定資産について減価焼却が認められたもので、本件ほ脱税額約五〇〇〇万円は少なくなっていた旨、最後に税理士が更迭し、業界における要職を辞任して反省しているというものである。

しかしながら、第一については被告会社が、被告人ら一族の支配する同族会社であるから、脱税の方法により被告人会社の簿外資産を蓄財することは、被告人による資産の売却あるいは資金の不正な流用等の危険を生じ、ときには個人資産の増加と同様の効果をもたらすおそれがあり、税制度の根幹を阻害することに変わりはなく、ほ脱の動機として酌量の事由とはなり得ない、第二の産業廃棄物処理の確保及び営業にかかる簿外経費の主張については、国税査察官の調査及び検察官の搜査における被告人からの具体的に主張のあったものは、被告人の経営する高松建材株式会社の簿外経費として約一三九〇万円を認めるなどの措置をしており、被告会社の経費として認めるべきものはない。第三の国内セメント仕入れ代金の裏金による決済については、簿外仕入れ額として三期分で合計一億八五万五七九〇円を認容しており(記録四冊、六一八丁裏ないし六、二一丁裏、六二八丁)、平成二年一二月期において臨海セメントから架空の工事費を請求させて、仮払金を振替え、一五五一万二一〇〇円の利益調整を行って脱税をしたことは明らかであり、各期の申告において仕入金額を経費として申告すれば当然に認容されていたものであるのに申告しなかったものにすぎない、第四の機械購入代金を修繕費名目で処理したのは、減価償却を一年で行って当期の利益を隠蔽することにより利益を調整しようとしたものであるところ、機械を販売した各ディラーの関係者の供述によっても被告人からの強い要求によって架空の修繕費名目による請求書を作成させたことが明らかであり(記録三冊、二二七丁ないし二八七丁、三一九丁ないし四〇二丁)、第五の顧問税理士の指導については、会計事務所の事務員寒川幸信の供述によれば、申告期限近くまで多額の仮払金を資産又は経費への振替を行わないのみならず、社長立替金、あるいは支払費用や未払費用等の計上漏れがあり、これらを被告人が証ひょう書類を見せることなく口頭で説明するまま決算して申告していたことが認められ(記録四冊、五三三丁表ないし五三五丁裏)、ワンマン社長である被告人において適正な経費処理を行うための資料や情報を提供していなかったのみならず、被告人において利益調整を行った結果を報告して処理させていたことが明らかであり、顧問税理士を非難するのは本末転倒であって責任を転嫁しようとする被告人の主張には反省の情が認められず、まして第六の適正な申告をしておればほ脱税額が少なくなった旨の主張は、被告人自身の判断で固定資産として特別あるいは一般の減価償却を受けられる税法上の利点を放棄し、修繕費名目により一年間で実質上の減価償却をする不正な利益調整を行って目先の利益を圧縮しておきながら、脱税が発覚した後、適正な申告をしておれば、税額が安くなったとの後悔を物語るにすぎず、同情すべき事由に当たらない。

その他顧問弁護士の更迭等の主張はいずれも原審において主張されているものであり、被告人には同種前科があり、ほ脱事案が悪質で厳罰に処せられることを知りながら、あまり例を見ない税法違反を再度犯した被告人の遵法精神の欠如は目に余るものがあり、国家存立の財政的基盤である憲法の定めた納税義務を二度も怠り、国民の納税についての不公平感を助長した責任を厳しく咎められるべきものであるところ、原審の量刑が重きにすぎるとは到底認められない。

以上のとおり、本件控訴は、いずれも理由がないので棄却されるべきものと思料する。

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